おしゃれ工房You友(ゆうゆう) 大友 眞吾です
今回は毛皮付きベストです。
リバーシブル(両面で着られるタイプ)のチョッキで、細く切ったうさぎの毛皮をニット全面に編み込んであります。
今回のご依頼は、高齢となったお母さんが毎日のように愛用しているこのチョッキを息子さんが持ってきてくれたのですが、
シミだらけとなってしまった上に、汚物が付着してしまったとのことでお母さんにはもう破棄して新しいのを買おうと。
でもお母さんは・・・捨てる前に一度当店に相談して欲しいと。
物の価値観は、他人からすると何も価値がない物でも、自分にとってものすごく大切だったりするものってあります。
例えば2900円のシャツにカラー剤が付いてしまい、シミ抜き+染色で8000円のお見積りになっても、依頼されたりなんてしみ抜きもたくさんお受けしています。初任給で息子が買ってくれたシャツとか・・・お金では買えない思い入れがあるんですね。
もう、8年前になりますが、コートを3着お預かりさせてもらったお客様からはお金では買えない思いを綴ったメールも頂きました。
この記事はここをクリック!
「亡きご主人に買ってもらった鞄も、また一緒に歩く事ができます」と
喜びのメールを頂いた記事はここをクリック!
ご主人が奥様にプレゼントしたヴィトン・エピのお財布。
奥様がお亡くなりになり、ずっと使っていたけどかなり傷んしまい・・・
色を染め変えて修復した時の記事はここをクリック!
思い出の詰まった物以外でも、簡単には諦められない、捨てられないって物もあります。
それは、今の人にはない感覚と言うか、戦後の食べるものにも困っていた貧しかった日本を経験している方に多いかな。
ご飯一粒でも茶碗に残っていると、お百姓さんが一生懸命作ったお米を粗末にするな!目が潰れるぞ!!
豊かになった日本しか知らないけど物を粗末にしない、感謝を忘れるなって叱られながら育った時代。
服だって、手縫いで服を作ったり、破れたら手縫いで直して本当に生地の寿命が来るまで大切に着続ける、
身体が大きい兄が新品を着て、その服を弟の自分が着て、まだ着られれば親戚にあげたり・・・
このベストには毛皮が付いています。
昔は鶏など飼っていて、食べる時は自分で潰して食べていたんですね。
尊い命を奪って食べているのだから、無駄なく綺麗に食べる、食べれない皮や毛も服などで利用して無駄を出さない。
一つの命を無駄なく使う事を理屈ではなく身体で覚えてきたのが昭和の初期時代、貧しかった日本を知っている方だと思います。
私もこの店を開業した当時、手間がかかり金額もかかってしまうものは、買い替えたほうが・・・と言ったりしていました。
でも金額ではない、大切な事をお客様から教えて頂き・・・
今は購入金額は関係なく、仕事の難易度と手間を考えお見積もりさせて頂き、そこから先はお客様ご自身で決めて頂こうと考え、キャンセルも気軽に、お持ち帰りしにくい対応をしないようご説明させて頂いております。
そして無意味なクリーニングもお受けしていません。
例えば、このチョッキ。
毛皮洗いなんてしたってこのシミは薄くもなりません。
汚物が付いてしまったと相談されたものを、ドライクリーニングでって依頼されても意味が無いから・・・お受けしません。
汗をかいたけど、金額が高くなるならドライクリーニングって言われるものも・・・
クリーニングする意味が無いですとご説明させてもらいます。
今回も、この状態、水洗いが必要な状態です。だから、最初はお断りしました。
水洗いすると毛皮の根本に付いている皮膚部分が固くなったりするんです。
でも、お客様は、ダメになってしまったら諦めもつくし、やってみてください、と言う事でお受けさせて頂きました。
という事で、うさぎの毛皮付きチョッキの水洗いで洗っている工程も撮りましたが、
簡単にお受け出来るわけではありません・・・
諦めるのなら、試す価値はある・・・そんな事例としてご紹介です^^
毛皮部分を内側にして着られていたんでしょう。生地部分のシミと汚れがかなりひどい状態。
当然、水洗いなどどのお店もしませんので、クリーニングに依頼していたとしても似たような状態になってしまっていると思います。
色々とニオイもしており、このニオイとシミも出来る限り除去するよう洗っていくわけですが、、ダメになってしまうかもと説明しても、絶対にダメにならないよう色々と工夫をしながら洗っていきます。
今回も皮膚が硬くなるだけではなく、細い毛皮を編みこんでありますのでソフトな洗いの中で綺麗にしていきます。
まずは毛皮洗いで油性系の汚れを染み抜きしながら除去。
残った汚れやシミは洗いで落とすのではなく、全面をブラシ掛け、しみ抜きで除去、シミ抜き剤を洗い流す目的で水洗いをしています。
上右画像が皮革用洗剤に固くならないよう加脂剤、殺菌剤を入れ殺菌洗い、左画像は皮革エキスをたっぷり入れた仕上げ剤に漬け込んでいる画像。
洗いあがり後、全く固くならず仕上がりましたが、油分の量が多すぎたので、もう一度皮革洗いをして油分を少し除去。
毛皮の風合いもとてもよい感じで仕上がりました^^
そして仕上がりです。
目立つ濃いシミはほぼ除去出来ました。
画像ではわからないと思いますが、毛皮の皮膚も全く硬くなること無く仕上がっています。
毛は油分がしっかり入っていますので柔らかくて手触りもいい感じ^^アンゴラらしい柔らかさも復活しています。
ニオイは完全除去出来ました^^
どんな菌でも殺菌できる「殺菌洗い」をしていますので、とても清潔&無臭洗いができています^^
取りきれず薄っすらと残ってしまった部分もありますが、着ていれば分からない程度までには取れています。
当店でも、毛皮の水洗いは試行回数が少なすぎて、今のところ実際にはやってみないとわからないとお答えするしかありません。
皮革を扱い始めた当初、雨に濡れたり、水の中に落としてしまい、固くなった毛皮を柔らかくすることは出来ませんでした。
今も確実にできますとはいえないのですが、出来るかもしれないとお答えできるところまでできています。
でも、こうしたどこに依頼しても即断られるような状態の物は、本当にダメになってしまうかもしれない・・・
保証も何もできませんが、試さなければ綺麗になることもないんです。
そして今回も試してみたことで、まだまだ愛用して頂けるレベルで綺麗にすることができました。
もちろん、お受けできるもの、できないものとあります。
ダメになってしまった場合はどんなに手間を掛けても代金は頂きません。
手間を掛けさせて悪いから、とおっしゃってくれるお客様もいらっしゃいますが、当店はこういうご依頼をしてくださるお客様がいらっしゃるから、スキルアップしていくことが出来るんです。
綺麗にできなかったことを糧に、お金では買えない経験をさせて戴くことが何よりの報酬なんです^^